エイミー・ビーチ:ピアノ協奏曲 作品45

ジョアン・ポーク(ピアノ)、ポール・グッドウィン(指揮)、イギリス室内管弦楽団/エイミー・ビーチ:ピアノ協奏曲 作品45

作曲:エイミー・マーシー・ビーチ

(Amy Marcy Beach  1867 – 1944、アメリカ)

曲名:ピアノ協奏曲 嬰ハ短調 作品45

(Piano Concerto in C-sharp minor Op.45)

エイミー・ビーチはアメリカの作曲家で、優れたピアニストでもありました。外科医のヘンリー・ビーチとの結婚を機にピアニストとしての演奏活動をやめるのですが、これは音楽をやめて家庭に入るというよりは、エイミー・ビーチに作曲に専念してもらうようヘンリーが説得したのだそうです。

しかも、ちゃんと作曲に専念できるよう家事をさせなかったそうですから、ヘンリーがいかにエイミー・ビーチの作曲家としての才能を大切にしていたかがわかる興味深いエピソードかと思います。

エイミー・ビーチは2曲のピアノ協奏曲を残していますが、今回紹介するピアノ協奏曲作品45は1898年から1899年にかけて作曲されました。多くの録音が残されていて、エイミー・ビーチの代表的な作品のひとつでもあります。

一般的に、協奏曲は3つの楽章で構成されているのですが、この作品45は以下のように4楽章構成で、協奏曲としてはとてもめずらしい構成です。

第1楽章 Allegro moderato
第2楽章 Scherzo: Vivace (Perpetuum mobile)
第3楽章 Largo
第4楽章 Allegro con scioltezza

一般的に3楽章の協奏曲は、第1楽章と第3楽章を速いテンポ、まんなかの第2楽章は遅いテンポとなっているのが通常です。

エイミー・ビーチのこのピアノ協奏曲も4楽章ではありますが、はじめと終わり、つまり第1楽章と最後の第4楽章は速いテンポ、中間の第3楽章が遅いテンポとなっています。

第2楽章はスケルツォで速いテンポです。「Perpetuum mobile(ペルぺトゥウム・モビレ)」はラテン語で「常動曲」あるいは「無窮動」を意味し、常に一定のメロディーが途切れずに演奏されるように作曲されています。

この第2楽章の常動曲が、一般的な3楽章構成の協奏曲のなかに挿入されているのが興味深いところです。

では、ここからはエイミー・ビーチのこのピアノ協奏曲の印象について触れていきましょう。

第1楽章は最初に出てくる力強いメロディーが特徴的です。どこか大陸を思わせるような、土着的な力強さを感じさせるようなメロディー、と言っていいかもしれません。このメロディーの展開が終わると、突如、夢見心地な、ファンタジックなメロディーも出てきて印象がガラリと変わります。このピアノ協奏曲が作曲されたのが1898年から1899年にかけてですから、後期ロマン派ならではの情感の豊かさがよく込められているように思います。

第2楽章から第3楽章にかけては、メロディーの豊かさや流麗さが特徴といえるでしょう。このピアノ協奏曲には、エイミー・ビーチが作曲した歌曲のメロディーが使われていて、流麗さを増している印象です。

第2楽章は先ほど触れたように「常動曲」「無窮動」で、ひとつのメロディーが弦や管のいろんな楽器によって演奏されていきます。ピアノは逆にメロディックな伴奏に徹しているようです。第3楽章はうってかわって陰鬱な印象ですが、ピアノの華麗なフレーズが華やかさを加えているようです。

第4楽章はこの曲唯一の3拍子で、ワルツのような印象で始まります。発想標語にある「scioltezza(ショルテッツァ)」はイタリア語で、「流暢に」あるいは「饒舌に」といった意味です。第2楽章、第3楽章から連なる流麗さに第1楽章の力強さが加わったようなダイナミックな楽章といえるでしょう。

さて、ここで一般的な協奏曲には「カデンツァ」が作曲されていることに触れておきましょう。

カデンツァは、主に協奏曲の第1楽章の終わりの前、クライマックスあたりに置かれます。ピアノ協奏曲ならピアノ、ヴァイオリン協奏曲ならヴァイオリンといった具合に、ソロの楽器がオーケストラの伴奏なしに単独で演奏する箇所がもうけられます。

たとえばピアノ協奏曲という名称を正式に書けば「ピアノとオーケストラのための協奏曲」です。ピアノとオーケストラとで合奏をしていくのが協奏曲ですが、せっかく腕のあるソリストが演奏するのですから、ソリストひとりで演奏の巧みさや表現力を披露する箇所をもうけようというわけです。

ちなみに、ここで紹介した動画でいえば、第1楽章の15分25秒から低弦とティンパニが加わりますが、18分14秒あたりまでがカデンツァです。また、第2楽章にもちょっとしたカデンツァがあります。

このカデンツァは元来、演奏するソリストが即興で弾いていたとされています。もちろん作曲家本人が作曲する場合もありますし、有名な協奏曲では別の作曲家があとからカデンツァを作曲するということも通例となりました。エイミー・ビーチもベートーヴェンのピアノ協奏曲第3番のカデンツァを作曲しています。

さて、今回とりあげた動画で演奏するピアニスト、ジョアン・ポークはアメリカで活動しているピアニストです。アメリカのレーベルであるArabesque Recordingsでエイミー・ビーチのピアノ作品全集の録音にも取り組んでおり、教育者としても活動しているピアニストです。

また、指揮のポール・グッドウィンは、お詳しい方はイギリスのオーボエ奏者としてご存知でしょう。近年は指揮者としても幅広いキャリアを築いています。

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