田原綾子(ヴィオラ)、桑原志織(ピアノ)/ブラームス:ヴィオラ・ソナタ第2番
作曲:ヨハネス・ブラームス(1833 – 1897、ドイツ)
作品:ヴィオラ・ソナタ第2番 変ホ長調 作品120-2
ヴィオラという楽器は16世紀にはすでに存在し、バロック時代にもアンサンブルのなかで当たり前のようにひとつのパートとして演奏されていました。そして、ヴィオラは人間の声にもっとも近い楽器といわれているのをご存じの方も多いでしょう。しかし、数多いクラシック音楽のなかでヴィオラのための作品となると、これが不思議なことにけっこう数が限られてくるのです。
このブラームスのヴィオラ・ソナタは2曲あるのですが、もともとはブラームスがクラリネット・ソナタとして作曲し、のちに本人がヴィオラ用に編曲した作品です。それでも現在、この2つのソナタは、ヴィオラのための楽曲としておそらくもっとも親しまれている作品といえるでしょう。
これは、この2つのソナタが優れていると同時に、いかにヴィオラに適しているかということを物語っているのではないかと思います。
さて、この作品が書かれたのは1894年のことで、ブラームスの室内楽曲としては最後の作品です。曲の詳しいことについては、Wikipediaにおまかせしてしまいます。
ここでは第2番をとりあげるのですが、やはり惹きつけられてしまうのは第二楽章の冒頭の強い哀愁を含んだメロディーでしょうか。また、第三楽章がブラームスが得意とした変奏曲で成り立っているのも興味深いところです。
ヴィオラならではの聴きどころもいくつか挙げておきたいと思います。
まず、原曲のクラリネットとの大きな違いとしてビブラートがかけられている点を挙げておきます。クラシックでは、クラリネットの演奏にはビブラートをかけられることがありません。一方、ヴィオラの演奏ではビブラートをかけるのが一般的ですので、奏でられる一音一音に表情がつき、より聴き手の感情に訴えかけてくるということがいえると思います。
また、低音弦の響きもヴィオラ特有のものといえるでしょう。この響きは渋さやまろやかさを感じさせるのですが、こういった響きが、ブラームスの曲が与える哀愁や諦観といった印象に、さらに深みを持たせているといえるでしょう。
さらには、原曲のクラリネット・ソナタでは聴くことのできない、弦楽器ならではの奏法、複数の弦を同時に弾く重音奏法が使われているのもポイントです。ソナタ第2番では、第二楽章の中間部で使われていますが、強い感情の発露と、その直後の、後ろ髪を引かれるような余韻をより強調する効果的な使われ方かと思います。
ついつい原曲のクラリネットのほうを軽んじるような書き方になってしまいましたが、そもそもこの曲は、作曲意欲を失いかけていた晩年のブラームスがクラリネットの名手と出会ったことで作られた曲です。同時期には、クラリネット三重奏曲、クラリネット五重奏曲が作曲され、こちらも名曲として広く親しまれています。YouTubeにも動画が多くありますので、クラリネット・ソナタとあわせて楽しんでいただければと思います。