ニコラス・フィンク(指揮)、西ドイツ放送合唱団/ブルックナー:モテット「この場所をつくりたもうたのは神である(Locus iste)」
作曲:アントン・ブルックナー(1824 – 1896、オーストリア)
曲名:モテット「この場所をつくりたもうたのは神である(Locus iste)」
壮大な交響曲で日本でも人気が高いブルックナーですが、ここで紹介するのは3分ほどの無伴奏合唱曲です。
このモテット「Locus iste」は1869年に作曲されました。ちなみに「モテット」というのはキリスト教の宗教的な声楽曲のひとつですが、単一の楽曲で、ミサやレクイエムのように複数の曲で構成されるような大掛かりなものではありません。
したがってアマチュアの合唱団などで歌われることも多く、このブルックナーの「Locus iste」もそのうちの一曲といえるでしょう。キリスト教の宗教曲のため歌詞はラテン語です。
Locus iste a Deo factus est,
inaestimabile sacramentum,
irreprehensibilis est.
日本語に訳すと
この場所は神が作ったものである
かけがえのない秘蹟であり
それは咎められないものである
といったところでしょうか。旧約聖書のなかのヤコブの梯子やモーセの話がもとになっているそうです。
わずか3行の歌詞、3分ほどの曲ですが、聴いてみてわかるとおり、大変美しい響きをもっていますが、もう少し聴きどころを探ってみましょう。
この曲の構成は、
A – B – A
という三部構成になっています。先ほどの歌詞をあてはめていえば、
1行目 – 2・3行目 – 1行目
となっているわけですが、この中間部の2・3行目のところ、特に3行目の「irreprehensibilis est」を歌うテノールが半音ずつ下がっていき、ソプラノとアルトが追随します。アルトも途中までですが半音ずつ下がります。
低声部のバスは休止のため透明感のような感覚がありながら、しかし一方で中声部が半音ずつ下がっていくことによって不安定感をもたらすのですが、テノールの4回目の「irreprehensibilis est」で調和がおとずれ、かつテノールが半音ずつ下がっていくことによって深みを増していくような感覚をもたらしています。
また、1行目に戻ったあと、「Deo」の一語に対して3小節を費やして音をのばしている箇所があります。これはグレゴリオ聖歌などの中世から使われている手法(「メリスマ」といいます)がこの曲のなかでは唯一ここだけに使われているのもポイントかと思います。
さて、今回紹介した動画はケルンを拠点とする西ドイツ放送(WDR)所属の西ドイツ放送合唱団によるものです。ドイツの放送局のオーケストラというと西ドイツ以外にも、バイエルン、フランクフルト、北ドイツ、南西ドイツなど世界でもよく知られていて、日本のクラシック音楽ファンにもおなじみかと思います。
また、WDRは西ドイツ放送交響楽団(合唱団も含めて)のコンサート映像の動画制作にも力を入れていて、比較的マイナーな作品も積極的にとりあげています。気になった方はいろいろチェックしてみてください。