ジャン=イヴ・ティボーデ(ピアノ)、サンフランシスコ交響楽団員/フォーレ:ピアノ四重奏曲第1番
作曲:ガブリエル・ユルバン・フォーレ
(Gabriel Urbain Fauré 1845 – 1924、フランス)
作品:ピアノ四重奏曲第1番 ハ短調 作品15
(Piano Quartet No.1 in C minor Op.15)
フォーレと室内楽
フランス近代音楽で重要な作曲家のひとりであるガブリエル・フォーレのピアノ四重奏曲第1番です。
声楽曲である「レクイエム」がとても有名ですが、ヴァイオリン・ソナタからピアノ五重奏曲まで、さまざまな室内楽曲を残していて、フォーレ自身も室内楽曲を作曲することを好んでいたことが知られています。そのなかから今回は、フォーレが30代のころに作曲したピアノ四重奏曲第1番を選びました。
ピアノ四重奏曲は一般的に、ピアノ、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロで演奏されます。ピアノと弦楽四重奏(ヴァイオリン2台、ヴィオラ、チェロ)で演奏されるピアノ五重奏曲ほどポピュラーや編成ではないのですが、そのなかでもフォーレのピアノ四重奏曲は録音やコンサートで演奏される機会の多い作品といえるでしょう。
近代音楽を聴くカギ
フォーレという作曲家は、ロマン派の熟した時代から現代音楽が生まれる時代を生きた作曲家です。ロマン派の巨匠たちの遺産を受けながら、そこからどのように新しい扉を開けようとしたのか。そのカギのひとつに新しい「和声」があるのですが、古典派やロマン派の音楽にはない新しい音の重なり方を味わうことが、フォーレ、あるいは近代音楽の作曲家の作品を聴く大切な手がかりになると思います。
作品の聴きどころ
明確なメロディーで印象に残りやすい第1楽章は伝統的なソナタ形式で作曲されています。この明確なメロディーがどう扱われていくか、どう展開されていくかがソナタ形式でのひとつの聴きどころです。
その上で、たとえばピアノや弦楽器の伴奏がどのような響きで演奏されているか、古典派やロマン派の音楽とは違った響きが聴こえるかという点を意識しながら聴くと、近代音楽ならではの特徴をつかむことができるでしょう。
リズミカルな第2楽章スケルツォの躍動感や、第3楽章アダージョの憂いと美しさもこの作品の聴きどころです。
このピアノ四重奏曲第1番ですが、「作品15」という番号の若さが示すとおり、フォーレの作品のなかでは初期あるいは前期にあたります。もしこのピアノ四重奏曲第1番が気に入るようでしたら、ぜひ、その数年後に作曲された第2番や、あるいは後期に作曲された2曲のピアノ五重奏曲と聴き比べてみてください。
演奏陣について
最後に、とりあげた動画の演奏陣について書いておきましょう。ピアノのジャン=イヴ・ティボーデはメジャーレーベルからのデビューによって華々しいキャリアを積んできたことでご存知の方も多いでしょう。室内楽曲でのアンサンブルにも積極的で、現在はアメリカで後進の育成に取り組んでいます。
弦楽器奏者が所属しているサンフランシスコ交響楽団はアメリカでも有数のオーケストラで、ピエール・モントゥーや小澤征爾、マイケル・ティルソン=トーマス、エサ=ペッカ・サロネンといった優れた指揮者たちとタッグを組んできた歴史があります。
とりあげた動画では、コロナ禍のためにマスクの着用と各自が距離をとって演奏されています。こうした演奏が記録として残されていくことも、動画共有サイトにおけるアーカイブ性というものを思い起こさせてくれるようで意義深いと思えます。