大田麻佐子(ピアノ)/フランソワ・クープラン:クラヴサン曲集第2巻より「牧歌(ロンドー)」
作曲:フランソワ・クープラン
(François Couperin 1668 – 1733、フランス)
曲名:クラヴサン曲集第2巻第6組曲より「牧歌(ロンドー)」
(Second livre de pièces de clavecin, Sixième ordre: V. Les bergeries, rondeau)
フランソワ・クープランはフランスのバロック時代を代表する作曲家のひとりです。
リュリ、シャルパンティエ、ラモーといったフランスの同時期の有名な作曲家がオペラなどの舞台音楽で名声を得たのに対し、フランソワ・クープランはチェンバロの作品や室内楽曲、宗教合唱曲の分野で知られています。
曲集のタイトルに含まれる「クラヴサン」はフランス語でチェンバロのことを指します。フランソワ・クープランはクラヴサンのための作品を量産し、それをまとめて曲集として発表しました。クラヴサン曲集は第4巻まで出版されています。
ひとつの曲集は「オルドル(ordre)」と名付けられた組曲が複数収められています。ここでとりあげた第2巻は第6組曲から第12組曲までの6つの組曲が収められていて、今回とりあげた「牧歌(ロンドー)」は第6組曲の第6曲にあたります。
ちなみに、ここでいう“組曲”についてですが、曲集第1巻ではアルマンド、クーラント、メヌエットといった舞曲をまとめた、バロック時代の典型的な組曲に近いのですが、第2巻からは「さえずり」「花開く百合」「修道女モニク」といったような標題をつけた作品が占めるようになりました。“ordre(オルドル)”はもともと「順序」「整理」といった意味のようですが、ここでは「組曲」のほうがしっくりくるかもしれません。
さて、この「牧歌(ロンドー)」ですが、とても優しい雰囲気が印象的ではないでしょうか。音程の移動がなだらかに上下しますので、ちょうど「牧歌」というタイトルのとおり、なだらかな丘や風といったものを想像しやすいかと思います。
演奏自体もそれほど難しくなく、ピアノの入門曲としても人気のある作品です。それでいうと、J.S.バッハが二人目の妻のために作った『アンナ・マグダレーナ・バッハのための音楽帳』にもこのフランソワ・クープランの「牧歌(ロンドー)」が収められています。この『音楽帳』は練習用の意味もあるようですので、「牧歌(ロンドー)」が練習曲としても楽しめる作品としてバッハは考えたのでしょう。
なお、原題は「Les Bergeries(Rondeau)」ですが、「Les Bergeries」を直訳すると“羊小屋”といった意味になるようです。インターネットでは「田園詩」「羊飼いたち」といった表記も見かけますが、もっともよく見かける表記は「牧歌」かと思います。 副題のように添えられている「ロンドー」は主にフランス風の舞曲を意味します。バロック音楽ではわりとよく出てくる楽曲形態ですので、おぼえておくとよいかもしれません。
選んだ動画はドイツ在住のピアニスト、大田麻佐子さんによる演奏です。一般的にはピアノでの演奏では装飾音をつけることはあまり多くないのですが、この演奏では特に後半で積極的に装飾が施されています。
また、音符をはねるように演奏している(シャッフルといいます)のも特徴的です。もしかしたらロンドーが舞曲であることをふまえた解釈かもしれません。そういった意味では“個性的な”演奏といえるでしょう。