クロノス・カルテット/フィリップ・グラス:弦楽四重奏曲第2番「カンパニー」
上の動画はこのサイト用に作成した再生リスト(YouTube)の1曲目です。そのまま全曲視聴できます。
作曲:フィリップ・グラス
(Philip Glass 1937 – 、アメリカ)
曲名:弦楽四重奏曲第2番「カンパニー」
(String Quartet No.2 “Company”)
フィリップ・グラスはアメリカの作曲家で、先頃ご紹介した「ディファレント・トレインズ」のスティーヴ・ライヒと並んでミニマル・ミュージックを代表する作曲家としてよく知られています。
ミニマル・ミュージックとフィリップ・グラス
たいへん大雑把ですが、ミニマル・ミュージックとはどんな音楽なのかをあらためておさらいしておくと、
- 短いフレーズをくりかえし演奏する
- 1960年代にアメリカで生まれた音楽
と言うことができると思います。
グラスは子どもの頃からクラシック音楽の教育を受けていましたが、のちにインドのシタール奏者であるラヴィ・シャンカールや、また戯曲『ゴドーを待ちながら』で有名なアイルランド出身の作家であるサミュエル・ベケットの作品、あるいはみずから改宗した仏教に大きな影響を受けながら、自身の音楽性を追求していきました。
作品と聴きどころ
グラスの弦楽四重奏曲第2番「カンパニー」は1983年に作曲されました。もともと、サミュエル・ベケットの小説『Company(邦題:伴侶)』を基にした戯曲のために作曲されたものでした。
この作品は4つの楽章からできていて、その点は通常の弦楽四重奏曲やクラシック作品と同様です。しかし、それぞれの楽章は、I. II. III. IV. といったローマ数字とメトロノーム記号があてられているだけです。
I. ♩=96
II. ♩=160
III. ♩=96
IV. ♩=160
といった具合です。そぎ落とされていてミニマルです。速度の指定も96、160、96、160と反復していますね。
そしてこの作品、とっつきにくいようでいて、実はけっこうドラマチックな部分も含んでいるというか、グラスの作品、あるいはミニマル・ミュージックのなかでもわりとキャッチーで聴きやすいほうなのではないかと思います。
タイトルの「カンパニー」は日本語では「会社」と考えてしまいそうですが、原作であるサミュエル・ベケットの小説は「伴侶」と訳されています。この小説は英語とフランス語で書かれているのですが、英語(Company)にもフランス語(Compagnie)にも「会社」のほかに「同席」「仲間」「一緒にいること」といった意味があるようです。
しかし、それにしては暗い曲調です。戯曲『ゴドーを待ちながら』をはじめ、ベケットの作品をよくご存じの方はなるほどと思われるかもしれませんが、この「伴侶」も、夫や妻だとか、“人生の伴侶”といった意味というよりも、どうやら具体的な姿をしていない、誰でもない得体の知れない何か、と言えそうです。
だとすると、この4つの楽章をとおして、ときに波のように影が忍び寄るような、ときにひしひしと強く迫ってくるようなものとして描かれているのもなんとなくわかるような気がします。もしかすると、この曲で描かれているもの、波のように忍び寄る影や、強く迫ってくる何かが「伴侶」そのものを指し示している、といった聴き方も可能なのかもしれません。
最後に
冒頭の動画で演奏しているのは、現代音楽をメインに演奏するカルテットとして日本でもよく親しまれているアメリカのクロノス・カルテットです。クロノス・カルテットといえば、日本に住む作曲家、そしてミニマル・ミュージックの祖とも称されるテリー・ライリーの90歳の誕生日をコンサートで祝いたいと日本への旅費をクラウド・ファンディングで集めたことも話題になりました。
さて、せっかくですので、この作品が作曲された同じ年にグラス自身が弦楽オーケストラ版に編曲したバージョンも紹介しておきましょう。下の動画は、湯浅卓雄の指揮、北アイルランドのアルスター管弦楽団による演奏です。弦楽四重奏版よりも各パートに厚みがありますので、演奏そのもの、特にフレーズの反復に迫力が感じられるのではないでしょうか。
こちらの動画も再生リストにしてありますので、そのまま全曲視聴できます。
湯浅卓雄(指揮)、アルスター管弦楽団/フィリップ・グラス:カンパニー