ベアトリス・ユリア=モンゾン(メゾソプラノ)、ロベルト・アラーニャ(テノール)、ジョルジュ・プレートル(指揮)、フランス国立管弦楽団、アヴィニョン歌劇場合唱団、他/マスカーニ:歌劇「カヴァレリア・ルスティカーナ」
作曲:ピエトロ・マスカーニ(1863 – 1945、イタリア)
曲名:歌劇「カヴァレリア・ルスティカーナ」
「カヴァレリア・ルスティカーナ」について
今回は、オペラに興味はあるけど、映像もちゃんと観たことがないという方に向けて書いてみたいと思います。
マスカーニの「カヴァレリア・ルスティカーナ(Cavalleria Rusticana)」は数多くのオペラのなかでもとても有名な作品です。名曲ガイドブックにも載っていることと思います。
しかしオペラは一般的に演奏時間が長く、全編の演奏に2〜3時間かかるのが当たり前です。ですから、そんな大かがりな作品を聴くことに躊躇してしまうのも不思議ではありません。そこで、演奏時間が1時間余で済んでしまう「カヴァレリア・ルスティカーナ」にご登場いただこうというわけです。
「カヴァレリア・ルスティカーナ」は1890年にイタリアの作曲家、ピエトロ・マスカーニによって作曲されました。日本語では主に「田舎騎士道」と訳されています。
それまでのオペラは神話や歴史上の出来事を題材にして絢爛豪華な作品になっていることがほとんどでした。
しかし、マスカーニが生きていた頃のイタリアの文学シーンでは、庶民の生活や出来事を題材にする「ヴェリズモ(現実主義)」という運動がおこり、大流行しました。この動きはすぐにイタリアの演劇やオペラに影響を与え、こうした流れのなかで生まれたのがオペラ「カヴァレリア・ルスティカーナ」です。
あらすじ
さて、YouTube動画で海外のオペラを観るとしても、残念ながら日本語の字幕は出ませんので、ここでおおまかなストーリーを説明しておきましょう。
物語の舞台はイタリアのシチリア島のとある村、復活祭の日です。
青年トゥリッドゥは村の娘であるサントゥッツァ(サンタ)と婚約しています。トゥリッドゥの母ルチアは村の酒場の女将をしています。
実はトゥリッドゥにはローラという元恋人がいました。しかしローラは、トゥリッドゥが貧しさから兵役についていた間に、裕福なアルフィオという男と結婚してしまっていました。
アルフィオが仕事で家をあけがちなのをいいことに、ローラはトゥリッドゥをそそのかして密会を重ね、一方でトゥリッドゥはサントゥッツァに冷たくあたっていたのですが、ローラとの密会をとうとうサントゥッツァに知られることになります。怒ったサントゥッツァはローラの夫アルフィオに告げ口し、アルフィオは殺意をあらわにします。そして、サントゥッツァは告げ口したことを激しく後悔します。
教会のミサが終わると、トゥリッドゥをはじめ村人たちがルチアの酒場に集まって乾杯をします。しかしあとから現れたアルフィオが、トゥリッドゥがすすめる杯を毒かもしれないからと断り、トゥリッドゥはアルフィオにすべてを知られたことを悟ります。追い詰められた立場となったトゥリッドゥはアルフィオの耳を噛むことで決闘を了承します。その後トゥリッドゥは母ルチアに別れを告げて決闘の場所に向かうのですが、やがて聞こえてきた叫び声がトゥリッドゥの死を知らせ、母ルチアとサントゥッツァは悲しみにくずおれるのでした。
おすすめポイント
この「カヴァレリア・ルスティカーナ」ですが、おすすめする理由は単に短いからというだけありません。
イタリア南部ならではの情感豊かなメロディーを冒頭から全編に渡って聴くことができますし、歌手の腕の見せどころであるアリアやデュエットはもちろん、群衆のコーラス、そして美しい間奏曲といった、オペラの魅力がこの1時間にぎっしり詰め込まれているのです。
また、この動画の上演での、舞台上に置かれた巨大なロザリオが印象的な舞台美術や、スーツにネクタイといった現代寄りの解釈がなされた衣装といった演出もオペラの見もののひとつです。
さらに個人的にはですが、イエス・キリストの復活を祝う日に決闘で死んでしまう、あるいは浮気に悩まされるサントゥッツァの愛称が「聖」を意味するサンタであるといった聖と俗のギャップの哀しさも、この作品のポイントとして挙げることができるかもしれません。
今回ご紹介した動画について
今回ご紹介した動画は、2009年に開催されたフランスのオランジュ音楽祭のライブです。オランジュ音楽祭では古代ローマの遺跡をもとに野外劇場として復元された劇場で毎年オペラが上演されています。
この動画でトゥリッドゥを演じているのはフランスのテノール歌手、ロベルト・アラーニャです。フランス生まれですが、両親はシチリアの出身なのだそうです。アラーニャは現代のオペラシーンを代表するトップ・スターといえる歌手で、オペラアリアを集めたCDも出ています。
サントゥッツァを演じているのはフランスのメゾソプラノ歌手、ベアトリス・ユリア=モンゾンです。ビゼーのオペラ「カルメン」のカルメン役で一躍有名になりました。
そして、指揮のジョルジュ・プレートルはフランスの指揮者で、この動画の2009年の前年と翌年にはウィーン・フィルのニューイヤー・コンサートにも出演したほどの名指揮者です。2017年に亡くなってしまいましたが、オペラでも名歌手マリア・カラスや三大テノールと共演するなど、多くの実績を残しました。