マスネ:悲歌(エレジー)

エリー・アーメリング(ソプラノ)、ミシェル・ディスパ(チェロ)、ルドルフ・ヤンセン(ピアノ)/マスネ:悲歌(エレジー)

作曲:ジュール・マスネ(1842 – 1912、フランス)

曲名:悲歌(エレジー)

今回は、あの「タイスの瞑想曲」で知られるフランスの作曲家、マスネの歌曲をとりあげてみました。

悲歌(エレジー)というタイトルの作品はクラシック音楽の作品にはよく出てきます。つまり、作曲家が悲しい曲調の作品を書くときに「悲歌(エレジー)」と名付けることはよくあります。そのなかで、この作品は「マスネのエレジー」としてよく知られています。

歌詞は以下のとおりです。

Ô doux printemps d’autrefois, vertes saisons,
vous avez fui pour toujours!
Je ne vois plus le ciel bleu;
Je n’entends plus les chants joyeux des oiseaux!
En emportant mon bonheur…
Ô bien-amé, tu t’en es allé!
Et c’est en vain que revient le printemps!
Oui! Sans retour,
avec toi, le gai soleil,
les jours riants sont partis!
Comme en mon coeur tout est sombre et glacé!
Tout est flétri
pour toujours!

翻訳は著作権の関係もありますから、AIでおおまかに訳してみます。

ああ、懐かしく優しい春よ、緑の季節よ
永遠に去りしものよ!
もはや青い空は見えない
鳥たちの陽気な歌声も聞こえない!
私の幸せを連れ去りながら
ああ、愛しい人よ、君は去ってしまった!
そして春が再び訪れても無駄なことだ!
そう!戻ることはない
君と共に、明るい太陽も
輝かしい日々も去ってしまった!
私の心は暗く凍りついているようだ!
すべてが枯れてしまった
永遠に!

歌曲というと、ピアノ伴奏やオーケストラ伴奏で歌われるのが一般的ですが、この曲はピアノ伴奏にチェロもついてくるという、ちょっと珍しい演奏形態です。

作曲されたのは1869年ごろとされているようですが、1872年と表記されていることもあります。もともとはピアノのための「風俗的小品集 作品10」という作品集のうちの一曲だったのですが、これを「復讐の三女神」という舞台音楽で使うためにオーケストラ用に編曲し、さらにチェロ用に編曲し、またさらに歌詞をつけて歌曲にしたのがこの「悲歌(エレジー)」というわけですから、マスネ自身もよほどこの曲を気に入っていたのかもしれません。

マスネはロマン派時代の作曲家ですが、この「悲歌(エレジー)」の嘆きっぷり、さすが感情を豊かに表現することを特徴とするロマン派ならではの作品です。

歌の冒頭の一音からいきなり1オクターブ上がって、そこから、打ちひしがれるように、しだいに音が下がっていきます。中間部においても、短い音型が繰り返されている箇所には、もがいて苦しんでいるような印象を受けます。谷間を形成するような低音の置き方も深みを感じさせて絶望を連想してしまいますし、“Tout est flétri”も音が下がっていって終わりを迎えます。

さて、今回紹介した動画のなかで歌っているのはオランダのソプラノ歌手、エリー・アーメリングです。歌曲からオペラまでこなしましたが、特にフランス歌曲やドイツ歌曲に強く、大手レーベルにも数多くの録音を残した、クラシックファンにはおなじみの名歌手です。

この動画でも、単に悲しみを前面に出すのではない、強弱のつけ方、強く訴えるようなところと弱々しく引いていくところなどの表情のつけ方など、いかにコントロールしているかを聴くのも楽しみ方のひとつかと思います。

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