アロンドラ・デ・ラ・パーラ(指揮)、パリ管弦楽団/ミヨー:バレエ音楽「屋根の上の牡牛」
作曲:ダリウス・ミヨー(1892 – 1974、フランス)
曲名:バレエ音楽「屋根の上の牡牛」
ミヨーはフランスの作曲家で、いわゆる「フランス6人組 – Wikipedia」の一人としても知られています。
その「フランス6人組」が新しいフランス音楽を作る集団として一躍有名になった時期に発表されたのが、この「屋根の上の牡牛」です。ミヨーは、詩人であり外交官だった友人とともにブラジルに2年ほど滞在したのですが、そのときにブラジルの音楽に強く影響を受けました。この影響のもとに作曲されたのが「屋根の上の牡牛」ですが、ブラジルの大衆的な音楽がいくつもとりいれられていて、「屋根の上の牡牛」という一風変わったタイトルもブラジルの古い音楽に由来するのだそうです。
さて、曲を聴いてみると、とてもコミカルな響きをしているのがわかるかと思います。というのも、もともとこの曲はチャップリンの映画のための音楽として作曲されたものでした(曲名は「ヴァイオリンとピアノのためのシネマ幻想曲」といいます)。それとは別に、バレエの新作がつくられるにあたってオーケストラ用にアレンジしたのが、この「屋根の上の牡牛」というわけです。ちなみに、このバレエ「屋根の上の牡牛」の台本を書いたのはジャン・コクトーでした。20世紀前半のフランス芸術の華やかで賑やかな頃の様子をつい想像してしまいます。
先ほど「コミカルな響き」と書きましたが、コミカルなだけでは済ませないのがミヨーの音楽です。絶対音感をお持ちの方は気づかれるでしょうが、曲のいちばん最初のフレーズ、これが何度も繰り返されるのですが、実は出てくる度に音程が違っています。12ある調をすべて使っているんですね。調子はずれの合いの手のようなフルートとクラリネットも何回も調を変えてあります。
また、オーケストラがみんなで演奏しているのに、こっちのパートは変ホ短調のフレーズで、別のパートはト長調のフレーズを演奏している、つまり違う調性のフレーズが同時に演奏されているというようなこともあります。これを多調とか複調といいます。
参照→ アイヴズ:宵闇のセントラル・パーク – クラシック音楽~次の一歩
そしてところどころ出てくる半音階のフレーズ、200年ほど前にスウェーリンクやバッハが極めた技法を踏襲しています。ドビュッシーをはじめとする印象派の音楽から脱却しようとミヨーが現代的な様々なしかけを施しているのも、この曲の大きな魅力といえるでしょう。
紹介した動画は、メキシコ生まれの指揮者、アロンドラ・デ・ラ・パーラとフランスの名門パリ管弦楽団の演奏です。デ・ラ・パーラは動画のとおり女性の指揮者です。2000年代に入ってから女性の指揮者が増えてきた印象ですが、これからもっと増えて活躍してほしいですね。