パーセル:歌劇「妖精の女王」(管弦楽のための抜粋)

フランソワ・フェルナンデズ(ヴァイオリン、指揮)、ブレーメン・バロック・オーケストラ/パーセル:歌劇「妖精の女王」(管弦楽のための抜粋)

作曲:ヘンリー・パーセル(1659?- 1695、イギリス)

曲名:歌劇「妖精の女王」

今回はイギリスのバロック音楽を代表する作曲家、ヘンリー・パーセルです。

「妖精の女王」は、シェイクスピアの「夏の夜の夢」を原作として1692年に初演された歌劇です。音楽のつかないセリフだけの箇所も存在するため、純粋なオペラとは区別して「セミ・オペラ」とも呼ばれていますが、パーセルの代表作のひとつであり、イギリスのバロック音楽を代表するオペラともいえるでしょう。

今回紹介した動画は、歌劇「妖精の女王」のなかからオーケストラだけで演奏される曲ばかりを集めたものです。いわば、管弦楽のための抜粋版です。歌こそありませんが、パーセルの作風、イギリスのバロック音楽の妙味を味わえる動画として選んでみました。

ちなみに、こうして大規模な作品から数曲を集めたものを「組曲(suite)」と呼ぶことがあります。たとえばグリーグの「ペール・ギュント組曲」のように作曲家がみずから選んで組曲とすることもありますし、今回の動画のように、オーケストラが演奏会のためにまとめて組曲にすることもあります。ややこしいですが、バロック時代に生まれた「組曲」はまた少し異なります。こちらは小曲をまとめて「組曲」または「曲集」とするもので、大規模な作品からまとめているわけではありません。

さて、動画で選ばれている曲は以下のとおりです。

第1音楽
前奏曲
ホーンパイプ
第2音楽
エア
ロンドー
第2幕の前奏曲
第3幕の序曲(白鳥が近づいてくるときに奏されるシンフォニー)
妖精たちの踊り
緑色の服を着た男たちの踊り
猿の踊り

第1音楽、第2音楽というのは、劇がはじまる前の、観客が席に座るまでのあいだに演奏される音楽のことで、パーセルが活動していた17世紀ではこうした習慣があったそうです。

それぞれの曲について、ちょっとわかりにくそうなところに触れておきましょう。

「ホーンパイプ」はスコットランドやウェールズの舞踏から派生した3拍子の舞曲です。

「エア」はオーケストラやピアノなどの曲でもよく出てきますが、もともと“歌”を指します。メロディーがはっきりしていることが特徴といえます。

「ロンドー」は同じフレーズを繰り返すのが特徴です。バロック音楽以降では、組曲などのいろいろな曲をまとめた作品のなかの一曲としてよく使われています。

第3幕の序曲は悲愴な印象がありますが、劇中の登場人物たちの恋愛関係が混乱におちいる第3幕を予兆させるものでしょうか。低音部が半音階的に下がっていく様子などは不穏な印象も受けます。

白鳥が妖精に変身して踊る「妖精たちの踊り」はフラウト・トラヴェルソ(フルートの前身)
がメインで軽やかですし、そこへ現れる乱入者たちの「緑色の服を着た男たちの踊り」では勇ましい印象を与えています。

「猿の踊り」というのは、ハッピーエンドの結末が見えてきたので登場人物たちが喜んでいたら、木陰から猿たちも出てきて歓喜の踊りを踊る、といったところでしょうか。

今回は管弦楽のための抜粋版ですので、物語としてのバロック・オペラを味わうには物足りなかったかもしれません。もし興味があれば、CDの全曲盤を購入したり、YouTubeで全曲を視聴してみてはいかがでしょうか。

なお、こちらのサイトで、この「妖精の女王」の台本が日本語に翻訳されていますので、参考になると思います。

パーセル作曲 オペラ『妖精の女王』 – バロックオペラ日本語訳ノート

また、こちらのテキストも「妖精の女王」を知るうえでは興味深く読むことができるかもしれません。

高際澄雄「パーセル『妖精の女王』における詩と音楽」- 宇都宮大学国際学部研究論文集

演奏しているブレーメン・バロック・オーケストラですが、この演奏ではどちらかというと、ゆっくりめのテンポでじっくり聴かせるスタンスでしょうか、特に弦楽器ののびやかな響きが楽しめるのではないかと思います。ブレーメン・バロック・オーケストラのYouTubeチャンネルには数多くの演奏動画がアップされていますので、ご興味ある方はぜひいろいろ視聴してみてください。

ところで、こういった小編成のアンサンブルでは指揮者がいないことがよくあります。では、どうやって演奏をあわせているかというと、たいていの場合は第一ヴァイオリンのいちばん前の演奏者が指揮をかねていることが多いです。いわゆるコンサートマスターという役割です。

動画をよく見ると、コンサートマスターだけ身振りが大きかったり、演奏していないときに手振りで指揮をしていたり、また他の演奏者も、ちらちらとコンサートマスターのほうを見ていることにお気づきかと思います。もちろん綿密なリハーサルを重ねていますが、こうして演奏をあわせているわけです。

この演奏でコンサートマスターを務めているのは、フランスのヴァイオリニストのフランソワ・フェルナンデズです。ラ・プティット・バンド、シャペル・ロワイヤル、18世紀オーケストラなど有名な古楽器演奏グループや、日本におけるバロック・ヴァイオリンの第一人者である寺神戸亮との共演もある多才なヴァイオリニストです。

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