ロンドン・コンテンポラリー・オーケストラ・ソロイスツ/スティーヴ・ライヒ:ディファレント・トレインズ
作曲:スティーヴ・ライヒ(1936 – 、アメリカ)
曲名:ディファレント・トレインズ
スティーヴ・ライヒはアメリカの作曲家です。ミニマル・ミュージックの代表的人物であるだけでなく、現代音楽を代表する作曲家の一人です。
ミニマル・ミュージックをおおまかに説明すると、フレーズをパターン化して反復させるのが特徴で、1960年代のアメリカが発祥とされています。ミニマル・ミュージックは作曲家によってスタイルはさまざまですが、現代音楽の代表的な音楽形態であるだけでなく、ハウスやテクノ、エレクトロニカといったクラブ・ミュージックにとりいれられるなど、クラシックを聴かない音楽ファンからも聴かれることが多くなっている音楽といえるでしょう。
「ディファレント・トレインズ」はライヒの代表作のひとつで、1988年に作曲されました。演奏では、あらかじめ録音された弦楽四重奏の演奏や、加工された汽車の音、インタビューで録音された話し声が断片的に流れ、そこに実際の弦楽四重奏の演奏が加わります。
聴き始めるとすぐにわかるかと思いますが、弦楽四重奏の各パートが断片的に短いフレーズを繰り返します。これは録音されたインタビューの話し声の音程の上下を、そっくりそのまま音符に置き換えたものです。
ザクザクと音を刻むようにして、そして汽車がスピードをあげて走るようにして曲が進んでいきますが、それと同時にインタビューの話し声の反復と、それを模した弦楽四重奏の断片的なフレーズの反復も同時にそれぞれ展開していきます。そして、録音された話し声の意味や歴史性もまた、演奏とともに展開していくのがこの曲の大きな特徴といえるでしょう。
さて、ここで気になってくるのがインタビューの話し声かと思います。5人の音声が使われていて、1人はライヒの幼少時の家庭教師です。ライヒの両親は早くに離婚していて、ライヒが住んでいたニューヨークから母親の住んでいたロサンジェルスに汽車で会いに行っていたのですが、そのときに同行していたのがこの家庭教師で、曲中の声はその同行のときの思い出話から使われています。
2人めは、ニューヨークとロサンジェルスを結ぶ列車で働いていたポーターです。曲中の声は、ポーターとして働いていた頃の思い出話から使われています。
残る3人は第二次世界大戦時のユダヤ人迫害から逃れてアメリカに移住したユダヤ人です。曲中の声は当時の体験談から使われています。
曲の構成は3部構成になっています。
1. アメリカ – 第二次世界大戦前
インタビューの話し声は家庭教師とポーターが中心
2. ヨーロッパ – 第二次世界大戦中
インタビューの話し声はユダヤ人迫害から逃れた3人が中心
3. 第二次世界大戦後
インタビューの話し声は家庭教師以外の4人が中心
ライヒ自身もユダヤ人なのですが、彼が幼少時に汽車でニューヨークからロサンジェルスまで母親に会いに行っていた頃(1939~1942年)というのは、ちょうどドイツによってユダヤ人が強制収容所へと送り込まれた時期です。ライヒが、もし自分がヨーロッパにいたらまったく違う列車(Different Trains)に乗っていたかもしれないと考えたことが、この「ディファレント・トレインズ」を作曲するきっかけとなったそうです。
紹介した動画は、イギリスの芸術祭であるリヴァプール・ビエンナーレの2016年のときのライヴ演奏です。ライヒの80歳の誕生日の数日前だったようで、演奏後にライヒ本人がステージに上がる様子も収められています。
なお、この動画のコメントには、曲のなかで使われているインタビュー音声を文字におこしたコメントが投稿されています。もしよければ、ブラウザで開いてコメントを表示させてみてください。