ジルヒャー:合唱曲「喜びとともにいずこへ」

ライプツィヒ放送男声合唱団/ジルヒャー:合唱曲「喜びとともにいずこへ」

作曲:フリードリヒ・ジルヒャー17891860、ドイツ)

曲名:合唱曲「喜びとともにいずこへ」

「ローレライ」で知られるドイツの作曲家ジルヒャーは、主にドイツをはじめとする世界の民謡を採集し、それを合唱用として編曲したことで知られています。

民謡というと、作曲者さえわからない、世界各地で古くから伝承されてきた歌ということになるわけですが、ジルヒャーはこうした民謡を採譜し、さらには合唱用にパート付けをして楽譜を残し、広く楽しめるようにしたわけです。

この「喜びとともにいずこへ(Wohin mit der Freud’?)」は1852年に男声4声のための民謡として出版されました。「ああ真っ青な空よ(Ach du klarblauer Himmel)」という題名でも知られています。

おおまかな歌詞の内容としては、

 青空の美しさに喜びを感じるけれど、青空を抱きしめたくてもできない。わたしの喜びをどうすればいいのか。

 大地のあざやかな緑の輝きに恋心を感じるけれど、大地の緑にとびこみたくてもできない。わたしの喜びをどうすればいいのか。

 菩提樹の下で、わたしは自分の恋人を見つけた。彼女は青空のように、大地の緑のようにとても美しく、わたしたちはキスをして、喜びの歌を歌った。わたしは喜びをどこに向ければいいのかを知った。

といったところでしょうか。

聴いたらすぐに誰もが歌えて楽しめるというのが民謡の大きな特徴といえるでしょう。合唱用に編曲されているとはいえ、この動画でおわかりのとおり、3番まで歌っても2分かからない、とてもシンプルな曲です。

しかしシンプルさはそのままに、それぞれの声部(パート、この曲では4声)が合わさることによってこの曲のメロディーの魅力がさらに引き立ち、一曲の合唱曲として成立させるところに、作曲家としての手腕が光っているように思います。

ジルヒャーが生きた19世紀前半のドイツでは、アマチュアのコーラスグループが盛んに活動するようになりました。これは「ドイツ合唱運動」と呼ばれています。合唱であれば楽器の購入や演奏技術も必要ありませんから、手軽に楽しめる民謡などの合唱は大きな人気を得るようになったことでしょう。(参考→宮本直美「19世紀ドイツにおける合唱と共同体意識」- 国立研究開発法人科学技術振興機構

それまでは主に貴族のためのものだった音楽が(もちろん世俗レベルでも中世の頃から音楽は存在しますが)、19世紀においては庶民も自分たちで本格的に、なおかつ合唱曲というある程度の完成度を備えた楽曲を楽しめるようになったという点に、長い音楽の歴史の動きを感じざるをえません。

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