ヴォーン・ウィリアムズ:交響曲第5番

アンドリュー・デイヴィス(指揮)、フランクフルト放送交響楽団/ヴォーン・ウィリアムズ:交響曲第5番

作曲:レイフ・ヴォーン・ウィリアムズ

(Ralph Vaughan Williams 1872 – 1958、イギリス)

曲名:交響曲第5番 ニ長調(Symphony No.5 in D major)

ヴォーン・ウィリアムズはロマン派から近代にかけてのイギリス音楽を代表する作曲家の一人です。有名なイギリス人作曲家でいえば、この少し前には「威風堂々」のエルガーがいて、「惑星」で知られるホルストはヴォーン・ウィリアムズとは2歳違いです。

また、これもよく知られていることですが、イギリスはバロック時代のパーセル以降、エルガーやホルストの時代まで有名な作曲家が育たなかったという空白の時代がありました。(パーセルについてはこのサイトの「妖精の女王」をご参照ください)

この歴史の空白を埋めるかのように、エルガーやホルスト以降のイギリスの作曲家たちは多くの作品を残しています。ヴォーン・ウィリアムズもその一人です。そして、その作品がなかなか顧みられない作曲家の一人ともいえるでしょう。

ヴォーン・ウィリアムズの作品と交響曲第5番の聴きどころ

ヴォーン・ウィリアムズの作品はなかなか多彩です。

自然の風景をスケッチしたような作品もありますし、不協和音を大胆にとりいれた作品もあります。2つの世界大戦の経験を思わせる緊張感や絶望感に満ちた作品もありますし、イギリスの民謡をアレンジした親しみやすい作品もあります。

そのなかで、1938年から1943年にかけて作曲された交響曲第5番は、演奏時間も長くなく、比較的聴きやすいほうの作品といえるでしょう。

聴きやすさの特徴のひとつに全体をとおしてメロディーがはっきりしているという点が挙げられるかと思います。

第1楽章では最初のほうに出てくるひとつめのメロディーは広い情景をうたうような民謡を思わせるメロディーであることがわかるかと思います。そのあとに出てくるメロディーはやや明るくなっていますが、これもどことなくセンチメンタルな雰囲気があるでしょうか。

この2つのおおまかなメロディーがどう展開されているかというのが、この第1楽章の聴きどころなのです。メロディーがはっきりしているので、どう展開されていくかを耳で追いかけやすいというのはこの作品の魅力のひとつかと思います。

リズミカルな第2楽章に続く第3楽章ロマンツァはその美しさで知られています。ここでもやはりメロディーがわかりやすく、雰囲気が似ている第1楽章を思い出しながら聴くのもおもしろいかもしれません。

第4楽章はパッサカリアとされています。バロック時代には盛んに作曲されたパッサカリアですが、これをロマン派の時代に交響曲のなかに組み込むのは珍しいことかもしれません。

パッサカリアのおおまかな特徴は、スペイン発祥の3拍子の舞曲であること、それから、低声部がひとつのフレーズ(コード進行)を繰り返して、その上を他の声部がメロディーを演奏する、といったところでしょうか。(パッサカリアについてはこのサイトのリュリの「アルミード」のパッサカリアをご参照ください)

この交響曲第5番でのパッサカリアの形式が厳密に守られているわけではないのですが(途中から4拍子になります)、興味深いのは、最初にチェロによって演奏されるフレーズが単なるコード進行を担うだけではなく、後々もこの楽章で主役となるメロディーとしても展開されていく点にあります。また、後半には第1楽章で登場したメロディーもあらわれます。これらがどう扱われているのかを意識しながら聴いてみるとよいかと思います。

おわりに

今回紹介した動画で指揮をしているのはイギリスの指揮者、アンドリュー・デイヴィスです。2024年に惜しくも他界してしまいましたが、大手レーベルからイギリス音楽作品を多くリリースしていますのでご存知の方も多いことでしょう。

ヴォーン・ウィリアムズは交響曲を9曲作曲していますが、9曲のそれぞれも大変に個性豊かといえるでしょう。たとえば最初の交響曲である「海の交響曲」は全編にわたって合唱が加わる壮大なスケールの作品ですし、3番目の「田園交響曲」や第4番は戦争の緊張や絶望を思わせます。そして7番目の交響曲にいたっては南極探検隊を描いた「南極交響曲」です。

もし気になるようでしたら、ぜひ検索していろいろと聴いてみていただきたいと思います。

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