ヴァイス:パッサカリア ニ長調

アントン・ビルラ(リュート)/ヴァイス:パッサカリア ニ長調

作曲:シルヴィウス・レオポルト・ヴァイス(1687 – 1750、ドイツ)

曲名:パッサカリア ニ長調 WeissSW18.6

ヴァイスはバロック後期のドイツの作曲家です。リュート奏者として大変有名な人物で、リュートのための作品を数多く作曲しています。

リュートは、演奏のしかたはギターと同様で、形は琵琶や中東のウードに似ている楽器です。バロックの前の時代区分にあたるルネサンスの頃には、リュートはすでに宮廷だけでなく民衆のあいだでも人気を得ていましたが、バロックから古典派へと時代が変わると急速に廃れていきました。

ヴァイスが作曲したリュートのための作品の数は、650曲から1000曲以上ともいわれています。そのほとんどが「ソナタ」あるいは「組曲」「パルティータ」として作曲されています。「ソナタ」や「組曲」「パルティータ」はいずれも数曲の舞曲をまとめた作品集ですが、『クラシック音楽作品名辞典』によれば、「ソナタ」や「組曲」「パルティータ」は約70曲もあるそうです。

今回紹介するパッサカリアも「ソナタ ニ長調 WeissSW18」という作品のなかの一曲です。「Silvius Leopold Weiss : The famous Dresden lutenist」というサイトの作品一覧によると、このソナタは前奏曲にはじまり、アルマンド、クーラント、アングロワーズ、サラバンド、メヌエットといった舞曲が並び、最後にこのパッサカリアでしめくくられます。作品名は「ソナタ」という名前になっていますが、構成としては典型的なバロック時代の「組曲」です。

パッサカリアはもともとスペインを起源とする楽曲形式で、3拍子が特徴です。そして、低声部がひとつのパターンを繰り返し演奏し、メロディーは曲が進むにつれて展開されていくという変奏曲になっているのも大きな特徴です。この意味では、以前紹介した、ヨハン・セバスティアン・バッハの「シャコンヌ」と同じです。

この低声部の繰り返しと、それに合わせながらメロディーがどのように展開されるか、というのがパッサカリアやシャコンヌの聴きどころです。

さて、このニ長調のパッサカリアですが、低声部が一音ずつ下がっていく進行によって、穏やかな印象を受けられるのではないでしょうか。逆に、短調では悲哀や陰鬱といった印象を受けることと思います(参照→ リュリ:歌劇「アルミード」よりパッサカリア)。ちなみにこの一音ずつ下がっていく進行は「順次下行」といってロックやポップスでもよく使われています。

それに加えて、アルペジオ(分散和音)による音の上下動、さらにはアルペジオに付け加えられるような、ちょっとした細かい音の流れの扱い方は洗練された美しさを感じさせます。また、ギターよりは芯のない、より繊細なリュートの音色によって、美しさがより際立って聴こえるといえるでしょう。

このニ長調のパッサカリアはヴァイスの作品のなかでも人気があり、リュート奏者の録音も多くあります。また、ギターによる編曲版も多く演奏されています。特に古楽器の演奏は、演奏者による表現の違いが大きく出やすいので、もし興味がありましたらYouTubeなどででも、いろいろな演奏を視聴してみてはいかがでしょうか。

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