ガスパル・サンス:カナリオス

ミゲル・リンコン(バロックギター)/ガスパル・サンス:カナリオス

(0:59から本編です)

作曲:ガスパル・サンス

(Gaspar Sanz 1640 – 1710、スペイン)

作品:カナリオス (Canarios)

スペインの音楽といえば、やはりギターは欠かせません。今回は、ギターがクラシック音楽において地位を確立しはじめたバロック時代の作品をとりあげようと思います。なかでもガスパル・サンスはその代表的な作曲家で、「カナリオス」はガスパル・サンスの代表的な作品のひとつです。

スペイン・バロックのギター音楽とガスパル・サンス

ギターという楽器そのものがスペイン発祥とされていますが、中世から存在していたとされるリュートが弦の数を増やして巨大化していったのにくらべて、小さなままのギターは手軽な楽器として貴族だけでなく庶民のあいだにも広まっていきました。それが1600年代(17世紀)の頃とされています。

1640年生まれとされるガスパル・サンスは、聖職者でありつつ音楽の教授でもありました。音楽の研究をさらに深めるためにイタリアのナポリとローマへ移り、そこでギターを学びます。

著書『スペインギターについての音楽入門』と「カナリオス」

帰国したガスパル・サンスは1674年に『Instrucción de música sobre la guitarra española』を出版します。これは日本語に訳すと『スペインギターについての音楽入門』といったところでしょうか。この本は計3冊にわたって出版され、合計で90曲ものギター作品と、音楽理論、ギター演奏の技法が掲載されました。ここで紹介する「カナリオス」もこの第1巻に掲載された作品です。

この『Instrucción de música sobre la guitarra española』では、スペインのさまざまな舞曲がとりこまれているのもひとつの特徴です。

ちょうどバロック時代の「組曲」が、アルマンド(ドイツ)、クーラント(フランス)、サラバンド(スペイン)、ジーグ(イギリス)の4曲セットでヨーロッパ各地の舞曲が楽しめるようになっていることにも似ていて、ガスパル・サンスの作品集を聴けばスペインのさまざまな舞曲が楽しめるようになっているわけです。

今回紹介する「カナリオス」もスペインの舞曲で、アフリカ大陸の北西沖にあるカナリア諸島を発祥とする舞曲であるカナリーを指しています。

「カナリオス」の魅力

あまり印象を誘導するようなことは書かないようにしていますが、ガスパル・サンスの「カナリオス」をお聴きいただくと、カラッと晴れた青空や緑の草原などをイメージされるのではないでしょうか。

やや速めのテンポと、カナリーの小気味よいリズム、バロック時代の作品で、これだけスッキリと抜けの良い作品もなかなか珍しいという気もします。この作品が名曲として多くの人を惹きつける理由のひとつといえそうです。

そして大きな魅力、特徴がもうひとつ、ギターの演奏に2種類あることに気づかれることと思います。つまり、弦をはじく演奏と、弦をかき鳴らす演奏です。これらはそれぞれ、プンテアード(弦をはじく演奏)とラスゲアード(弦をかき鳴らす演奏)といいますが、これも先ほど紹介した『Instrucción de música sobre la guitarra española』で論じられています。

特に弦をかき鳴らすラスゲアードは、他の楽器ではなかなか聴くことのできない、ギターならではの演奏方法といえるでしょう。

また、ガスパル・サンスの楽譜はタブ譜で書かれていることが知られています。

Instrucción de música sobre la guitarra española Libro I

https://s9.imslp.org/files/imglnks/usimg/0/03/IMSLP346373-PMLP393222-sanz_bk1_instruccion.pdf

バロックギター(5弦)の調弦は5弦からA・D・G・B・オクターブ上のEですから、一般的な6弦ギターとほぼ変わりません。ギターをお持ちの方は、350年前に書かれたタブ譜を見ながら演奏してみてはいかがでしょうか。

このバロックギターの調弦を見て気づくのは、1弦が1オクターブ高くなっていますので、ラスゲアードでかき鳴らすと常に1オクターブ高い音が1音鳴り続けるという点でしょうか。これが先ほど書いた「カラッと晴れた青空」、「スッキリと抜けの良い」といった印象をもたらすのかもしれません。

最後に軽くまとめ

スペイン・バロックの重要な作曲家とされるガスパル・サンスですが、その肖像画や詳細な伝記が残っていないのはなかなか残念です。

しかし、作品はこうして残っていますし、世界中のさまざまな演奏家がCDなどの音源を多く残しています。そして、さまざまな演奏家がいれば、さまざまな演奏の解釈が存在します。特にギターは即興演奏も盛んにおこなわれていて、今回紹介した動画のギタリスト、スペインのミゲル・リンコンの演奏も、装飾を含め、即興的な精神にあふれていて鑑賞者を楽しませてくれます。

そういえば以前このサイトで紹介したアンドリュー・ヨークの「サンバースト」の動画も即興演奏的なイントロから本編につなげられていました。

即興演奏はどうも……という方には、ミゲル・リンコンの演奏よりもややスマートで、かつ適度な装飾やラスゲアードもしっかりとりいれている動画をひとつ紹介しておきましょう。

こちらはフィンランドのギタリスト、トゥオマス・コウルラによる演奏です。録音、映像も優れていますので鑑賞しやすい動画かと思います。

トゥオマス・コウルラ(バロックギター)/ガスパル・サンス:カナリオス

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする